呼吸器外科ご案内

Respiratory Center since 2012

HOME | 呼吸器外科ご案内

肺癌

Lung cancer

肺の構造

右肺は3つの肺葉で、上葉、中葉、下葉と分かれます。
左肺は2つの肺葉で、上葉、下葉と分かれます。
 

癌病巣の切除 リンパ節廓清

肺癌のある肺葉の切除とリンパ節廓清が基本ですが、肺癌の悪性度により
切除する範囲を小さくする縮小手術(区域切除、部分切除)を行うことがあります。※リンパ節廓清(がんの通り道のリンパ節を切除し治療とともにがんの進展程度を調べること)
 

肺癌の悪性度

a)腫瘍の大きさ・形態

腫瘍の大きさが2cmを超える場合は、標準手術である肺葉切除が基本となります。ただし、術前検査で心機能や呼吸機能は悪く、肺葉切除が困難と判断された場合は、縮小手術となります。
 右図に示すように2cm以下で全体径に占める充実径の割合が25%以下の場合は部分切除でも根治(完全に治る)する可能性があります。
全体径に占める充実径の割合が50%以上占める肺癌の悪性度は高いので肺葉切除が基本となりますが、区域切除と肺葉切除を比較した最近の日本のデータでは、区域切除と肺葉切除における生存率に差がなかったとの報告があり、検査データ等と合わせ手術術式を検討します。
 

b) リンパ節転移の有無

術前検査でリンパ節転移が疑われる又は実際にリンパ節転移がある肺癌は
肺葉切除が基本となります。
 

c) PETの集積の程度

肺癌の悪性度やリンパ節転移、他臓器への転移の有無を調べる検査がPET
検査です。肺癌の悪性度が強いとSUVといわれる悪性度を表す数値が高くな
る傾向があります。
 

d) 術前腫瘍マーカーの値等で定義されます。

腫瘍マーカー(CEA、SCCなど)の値が高いと悪性度が高い可能性があります。
 

手術の実際

①開胸手術(8cm-15cm程度の切開)

開胸手術(胸腔鏡補助下手術)(肋骨を広げて行う手術)(直視下手術)胸腔鏡を併用して、開胸し(8cm~20cm程度の切開)、直接術野を見ながら手術を行う。
 

②胸腔鏡手術(肋骨を広げない手術)(鏡視下手術)(術野は胸腔鏡を介して観察する)

a) 多孔式手術:2~3cmの創が3か所
b) 単孔式手術:4cm前後の創が1か所
 

③ダヴィンチ手術(ロボット支援下手術)

前胸部に3~4cmの創を1か所、側胸部に1cm前後の創が4か所作成し行う手術
 



開胸手術 胸腔鏡手術 ダヴィンチ手術
単孔式 多孔式
8cm-20cm前後 4cm前後の創が
1か所
2cm~3cmの創が
3か所
3~4㎝の創が1か所 
1㎝前後の創が4か所 
創痛 強い 弱い 弱い 弱い
器具の操作性 容易 やや難 比較的容易 容易 
視野 直接見る モニター越しに見る モニター越しに見る モニター越しに見る
拡大して見えない
(3D立体視)
拡大して見える
(2D平面視)
拡大して見える
(2D平面視)
かなり拡大して見える
(3D立体視)

上表のように、各アプローチにおけるメリット・デメリットがあります。
肺癌の悪性度・術式を検討し最適なアプローチで手術を行うよう心がけております。

  2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
開胸手術  創長8㎝未満 55 20 4 4 7
創長8㎝以上 11 15 17 25 46
胸腔鏡手術 単孔式 14 49 87 36 3
多孔式 35 25 10 30 21
ロボット支援手術 - - - 23 50
合計 115 109 118 118 127
  2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
部分切除  27 33 35 23 21
区域切除 7 15 18 18 29
肺葉切除 80 61 65 74 77
2葉切除 1 - - - -
合計 115 109 118 118 127

アプローチや術式によらず、原発性肺癌の術後ドレーン留置期間は約2日間、術後入院期間は約7日間です。

術後ドレナージ日数(day)
  胸腔鏡手術 胸腔鏡手術
(単孔式)
開胸(胸腔鏡補助下)
手術
全手術
日数
2~15 2~15 2~15 2~10
平均値 2.5 2.5 3.1 2.6
中央値 2 2 3 2
術後在院日数(day)
  胸腔鏡手術 胸腔鏡手術
(単孔式)
開胸(胸腔鏡補助下)
手術
全手術
日数
4~29 4~29 7~19 4~29
平均値 7.8 7.8 9.5 8.1
中央値 7 7 8 7

気胸

Pneumothorax

肺にできた風船(ブラ・ブレブ)が破れて、空気が胸腔内に漏れて肺がしぼんでしまう疾患です。若い(20歳以下)やせ型の男性に起こることが多いですが(原発性(自然)気胸)、肺気腫などに合併する高齢者に発症する気胸(続発性気胸)もあります。続発性気胸の方は、もともと呼吸機能の低下が見られますので、術後リハビリを行ってから退院される場合もあり、入院期間は延長することがあります。また稀ですが、月経随伴性気胸など女性特有の気胸もあります。

気胸になった場合の治療は、しぼんだ肺を膨らませるために胸腔内にチューブを挿入し、溜まった空気を取り除きます(胸腔ドレナージ)。空気漏れが止まらない場合や気胸を繰り返す場合は手術を行います。手術は胸腔鏡手術が(上述の単孔式や多孔式)基本でブラ・ブレブを切除もしくは焼灼し、シートで補強します。

術後の入院期間は、原発性(自然)気胸で約3日間、続発性気胸も、術前の呼吸機能の低下が無い場合は、原発性(自然)気胸と同様の入院期間ですが、術前呼吸機能の低下がある場合や、併存疾患の程度により入院期間は延長します。

縦隔腫瘍

Mediastinal tumor

腫瘍の大きさや発生部位により創の切開が異なります。
正中にある場合や近接臓器に浸潤が疑われる場合は、胸骨正中切開(胸の真中を切開し胸骨を縦切開する)で腫瘍切除を行っています。腫瘍が左右どちらかに偏在している場合は胸腔鏡手術(上述の単孔式や多孔式)で腫瘍切除を行います。また、5cm以下で周囲への浸潤がない腫瘍に対しては、胸骨を切開しない、剣状突起下二孔式胸腔鏡手術(創部は心窩部と胸部の2か所)も行っています。
 

 呼吸器外科手術件数(過去5年間)
  2019 2020 2021 2022 2023
悪性腫瘍(がん) 127 116 126 125 137
 原発性肺癌  115 109 118 118 127
 転移性肺癌 12 7 8 7 10
良性腫瘍 2 4 1 - 3
縦隔腫瘍 - 3 3 2 9
気胸 19 17 7 15 35
 原発性(自然)気胸 - 5 3 2 11
 続発性気胸 - 12 4 13 24
農胸 - - - 7 7
その他 19 12 21 22 27
合計 167 152 158 171 218

 

ステージ(病期)には大きく、臨床病期(術前病期)と病理病期(術後病期)の二つがあります。
臨床病期とは、治療を始める前にCT検査やPET検査、頭部MRIなどによってわかるがんの広がりの
ことです。
病理病期とは、手術の際に摘出した肺やリンパ節を病理(顕微鏡)で診断し、実際の癌の広がりを決定するステージ(病期)のことです。
術前病期と術後病期に相違を認めることがあります

  病理病期(※1) 臨床病期(※2)
ⅠA1 93.8 91.6
ⅠA2 78.6 81.4
ⅠA3 78.5 74.8
ⅠB 90 71.5
ⅡA 71.3(※3) 60.2
ⅡB - 58.1
ⅢA 54.5 50.6

(※1)松阪市民病院の生存率
(※2)2010年肺癌外科切除例の全国集計に関する肺癌登録合同委員会報告
(※3)II(IIAとIIBを合わせたデータ)